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第8章 熊本県立劇場の地域おこし活動報告
ここに文化会館(ホール)と村おこし町おこしのあり方についての参考例として、熊本県立劇場の方針を具体的に記述する。
昭和63年7月1日、熊本県立劇場はこれまでの文化会館の通念を一郷して、「行動する美しい劇場」の旗印しを掲げた。
地方自治とは文化や福祉を一軒一軒の家に出前することであり、文化会館はただ単に建物として建っているだけではなく、殊に地方文化会館は積極的に住民の中に自ら入り込んで、共に文化を発掘創造していこうとするのが、この旗印しの主旨であった。
そして、翌8月から半年をかけて、館長自ら県下98市町村(当時)を巡歴し、村民町民と直接膝を交えて話しあい、人材や文化を探し求めた。
そこで最も印象に残ったのが、もはや子供がいない究極の状態に追い込まれている過疎の現実と、過疎だからもはや何をやっても駄目だという諦念が満ちている心のあり方であった。しかもそれが伝承芸能や祭りを衰亡させ、日本人の心のふるさとである農の心を消滅させている状況を汲み取った。
文化会館が扱えるのは、芸術文化と広い意味での環境や福祉までも包括した心の文化であるから、そのためにはまず村民町民の萎えた心を振い興すことが先決であり、具体的手段としては、地域の人々の心のあらわれである伝承芸能の完全復元と、埋れている若い人達に、資金と発表の場を提供することではないかと考えた。
しかし、心を振い興すという抽象的目標に対しては、国も自治体も予算支出は困難であり、しかも、復元にしても創造にしても、最低1年以上の年月を必要とすると思われ、これに対応するには、単年度の予算枠の中では到底文化を通しての地域おこしは不可能と考えた。
直ちに税務関係を調査し、早くも巡歴2か月後の10月1日には、熊本県立劇場文化振興基金の制度を設立し、この基金は主として館長の県内における講演を、すべて劇場の基金事業とし、館長の個人収入とせずに、主催者依頼者からの基金への寄付の形をとることにした。さらにここに個人や企業からのこの振興事業への賛意の表れとしての寄付も加えることとした。
その基金は寄金が始まった平成元年から平成8年10月までの間に、総計約2億2千万円に及び、この内、個人と企業からの賛同寄付は、およそ18パーセントである。
さらに事業は高齢社会の中では緊急の必要があると認められるので、基金の利子によって事業を運営するまで積み立てられるのを待っていられないので、集った基金を直ちに取
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